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屍鬼〈1〉 屍鬼〈1〉
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屍鬼〈2〉 屍鬼〈2〉
小野 不由美 (2002/01)
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屍鬼〈3〉 屍鬼〈3〉
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屍鬼〈4〉 屍鬼〈4〉
小野 不由美 (2002/02)
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屍鬼〈5〉 屍鬼〈5〉
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屍鬼〈上〉屍鬼〈上〉
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屍鬼〈下〉屍鬼〈下〉
(1998/09)
小野 不由美

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::: ホラー・サスペンス ::: ★★★☆☆


やっとこ読了しました。

本作は、1998年にハードカバー上下巻として刊行された。
その中味は上下二段の1200ページにも及ぶ、大作長編小説でした。
当時、とても話題になった作品でしたし、何よりも、国語辞典のような厚さの単行本は珍しかった。
さらにタイトルの “屍鬼” という恐ろしげな言葉と、装丁デザインの美しさに惚れて、ハードカバー版が欲しかったのですが、あんなデカい本を保管しておく場所もなかったので、2002年に出版された、文庫版を購入しました。
そして2007年現時点でようやっと読んだしだいです。(´ー`)┌


舞台は、外場という山村。
現代でありながら、土着文化が根付いた因習ぶかい閉鎖的な村であり、村民達は三役と呼ばれる、庄屋、寺、病院を尊敬している。
その三役を中心とした共同体が外場村なのである。
そんな村が猛暑に襲われた夏、連続する不審死に見舞われる。
原因不明の死にいち早く気づいたのは、村民の命を預る尾崎医院の医師・敏夫と、反対に死を扱う寺の若御院・静信の2人。
幼馴染でもある2人は協力して、死の原因を追求していく。


読み始めは正直気が重かったです。
文庫で5冊ですよ!?
日にちをあまり開けずに一気に読まないと内容を忘れてしまいますからね。
それと、大量ページの小説って無駄な描写が多いから、物語が中盤にならないと面白くないんだろうなと簡単に想像できました。
実際、1・2巻は退屈でした。
村民の人々の平和な生活ぶりを延々と描写している1巻。
連続した不審死の描写が続く2巻。
しかし物語が急展開で動き出すのは、3巻あたりから。
そこからは怒涛の如く、一気に読ませてしまう著者の力量は圧倒されるの一言。

1巻では、多すぎると思うほどの登場人物が描かれている。
正直、誰が誰やらわからなくなる。(´ー`)┌
しかし、そこまで詳細に、丁寧に描いた効果は、後からボディーブローのように効いてくるのだ。
多くの村民の生死を、様々なパターンで描く事で、人間が抱える複雑な感情や思想が繁栄され、人間描写に厚みが増している。
それだけでなく、読者が多くの登場人物に感情移入しやすくさせることにも成功している。
なので、1、2巻はかったるいかもしれないが我慢して読んで欲しい。

そんな1、2巻を読破する上でも、是非著者にしてほしかったことがある。
それは読者が混乱しないようにする為にも、村民の相関図をつけて欲しかったと思う。
あれだけ綿密にキャラクターを作り上げたのだから、小道具も用意するという周到さが無いのが残念。
他にも村の地図も付加されていれば、よりリアリティが増すと思いました。
それとやはりもうちょっとコンパクトに纏めて欲しかったです。
著者の文章はとても読みやすいので、5巻でも問題ないとは思うのですが、人に寄っては、1巻の退屈さ加減に嫌気がさしてリタイヤする人もいそう。
せめて、文庫で上・中・下巻くらいがちょうど読みやすと思うのですが。。。









※ これ以降ネタバレしてます。


























素直な感想としては、非常に面白かった。
評価としては星4つでも良いとも思った。
星3つとなった要因は、元ネタがあったということ。
彼女の完全なるオリジナル作品であれば、間違いなく秀逸な作品であると言える。
そうならなかったのは、本作が著者が敬愛するホラー小説の帝王、スティーヴン・キング原作 『呪われた町』 のオマージュ的作品だったから。
しかし本家と異なるのは、著者のオリジナリティに加え、日本人の感性と日本文化や思想に根ざした作品となったこと。
つまり、 『呪われた町』 では日本人は心底から共感はできず、本作でこそ、真の恐怖を味わえるのではないかと思います。


注目すべきポイントは、 “屍鬼” というタイトルですかね。
貴志祐介の本格ミステリー、 『硝子のハンマー』 と同じくらい際どいネーミングでした。
というのも、始めて著者の作品を読んだのが、  『黒祠の島』 という推理小説だったせいか、本作は、連続殺人が発生するミステリーなのだと勝手に思い込んでいた。
ところが、読み進めていくうちに、未知なる病原体の存在が浮上してくる。
もしかして、ミステリーじゃなくて、バイオハザードなサスペンス!? なのかと思い始めたら、なんと結局は、 “吸血鬼” が登場するホラー・サスペンスであった。(゜ロ゜)
正直、この展開には驚きましたね。
まさか、このご時世に使い古された吸血鬼ネタを持ってくるとは想像だにしていなかった。
つまり、 “屍鬼=吸血鬼” なんだから、素直な読者は、タイトルを見ただけで、ゾンビか吸血鬼が出てくる小説なんだなと思ったことでしょう。


物語の展開は、村民の連続死の原因を突き止めるまでのストーリーと、原因が判明した後の村民達の攻防というサスペンスの2大柱で進められていく。
これが本作の外見的なストーリーである。
特に、原因不明の疫病と思われていた要因を、科学的に調査していく過程は面白かった。
現代的な医療の専門知識を用いて解説することで、読者から吸血鬼というアナクロな概念を捨てさせるのに一役買っている。
しかし、内面的(本質)ストーリーは、起き上がり(屍鬼)という現象を通して、人間のエゴイスティックな内面や、死生観、善悪、原罪を問うという、エンターテインメント性の欠片も無い重い内容である。
人間であれば誰しもが持つ思想であり、永遠のテーマである。
未だ誰にも解けない謎に挑んだ意欲溢れる力作だ。


本作の面白さは、物語の中核を担う2人の登場人物の視点だ。
外場村で尊敬されている、村でただ一軒の尾崎医院、通称・若先生こと、尾崎敏夫と、寺の住職、通称・若御院の室井静信だ。
病院と寺。
生と死。
人間にとって大切な2つの尊厳を守る相反する職業を持つ2人である。
2人は幼馴染でもあり、原因不明な連続死に最初は協力的だったが、屍鬼の存在が明らかになってくるうちに、お互いの死生観に食い違いが出始める。
そして、敏夫は生命を守るため生者側につき、反対に、静信は屍鬼の死を恐れる本能に、己の本質に気づかされ、彼らに傾倒していき死者側となり対立していく。
生きるか、死ぬか、2つの選択肢を突きつけられた時、多くの人が選ぶであろうポピュラーな選択肢を背負っているのが、敏夫と静信だ。
多くの小説では、敏夫と静信のような対比的な人物だけを取り上げて物語を創っていくが、著者はそれ以外にも、多くの登場人物達のそれぞれの生と死のパターン(エピソード)創り上げることで、読者は時に敏夫に、またある時は静信に、さらに夏野や、徹、律子、加奈子といった村人達に共感していく。
そういったあらゆるパターンを提示することで、読者に “あなたならどれを選択しますか?” と問いかけているようにも思えます。
また、前半は未知なるモノへの恐怖を描いていたが、後半は集団心理の恐ろしさが際立った。
吸血鬼というフィクションな部分を除けば、現実の人間社会では容易に起こりえる現象だ。
村八分といった小さいものから、集団リンチになり、価値観や宗教観の違いによる迫害へと発展し、どこかの国で起きる大虐殺。
そして戦争へ。。。決してフィクションとは言えない生々しさと、恐ろしさがある。
しかし著者の提示する選択肢は、人間が全滅するか、屍鬼を虐殺するか、イエスかノーかの2つだけでないところが、日本人の作家らしいと思う。


生を貪欲に求める人間と、死を本能的に恐れる屍鬼。
どちらの欲求も等しく、どちらが悪というわけでもない。
だからこそ生きたいと、死にたくないと葛藤するのである。
相反する現実と理想を同居させる術を模索する。
不可能と知りながら、人も鬼もあがきながら生きていくしかない。



敢えて突っ込むとしたならば、
沙子は何故、屍鬼達の村を作ろうなんてバカげた妄想にとり憑かれてしまったのか。
姿は少女ですが、実際は人一人分が往生するくらい生きてきたはずなのに。。。
幼稚な発想と思えるのですが。。。
人間が成長するのに20年としても、屍鬼はそんな人間を3、4日で死に至らしめるんですよ?
さらに屍鬼に襲われた人間は全てではないが、同じように屍鬼として甦るんですから。
ねずみ算式に人間よりも屍鬼が増殖していく。
それこそ未知なる疫病の如しです。
そうなれば、早かれ遅かれ屍鬼の存在に人間が気づき、虐殺されるのは明らかです。
わたくしが屍鬼だったら、土葬する国や地域では人間を襲わないし、屍鬼として甦りそうな死体は絶対に作らない。
そうしなければ、人間だけでなく、自分の首も締めることになる。
死にたくないと見苦しいほどにあがいた沙子のはずなのに、矛盾してませんか?
人を殺さなければ生きていけない苦しさを知っているからこそ、殺した人間が屍鬼となり、同じように苦しむ姿を見ることの方がよほど悲しいと思うのだが。
1番それがわかっているのが沙子のはずなのにね。
屍鬼として起き上がった彼女には罪は無い。
けど、屍鬼を自ら作ろうとする行為は罪深いと思います。

それと、敏夫と静信の肉親に対する感情が、あまりにも希薄なのには驚いた。
っつか、命と死を誰よりも尊ぶべき医者と坊主が、面を剥いだ時の恐ろしさは格別。






(  ゚_ゝ゚) { 『あがく、ということ・・・』 この心臓を動かすためだけに生きている。






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