::: サスペンス・ミステリ ::: ★★★☆☆
またもや、浅見光彦シリーズだと思って図書館で借りたら違いました。(笑)
ノン・シリーズでした。
何でも、ファンクラブの会員による人気投票で、5位に輝いた傑作だそうですよ。
の割には、シリーズ化されなかったんですね。
あらすじはというと、広告会社に勤める村久の恋人・恵津子が、1枚の絵を彼に託したまま突如失踪する。
彼女の行方を知っていると思われる人物と接触を図ろうとした矢先、村久の目の前でその人物が何者かによって殺害されてしまう。
“アスカノミコ” という謎の言葉を遺して。。。
恵津子が残した絵の中には、戦時中の残虐なワンシーンを写し撮った1枚の写真が隠されていた。
恵津子の行方と、写真の謎に肉薄していく村久の身に、次々と事件が巻き起こる。
浅見光彦シリーズのように、一言で旅情ミステリだとジャンル分け出来ない難しさがある。
大まかに分けると、歴史ミステリとサスペンス。
史実から抹消された明日香の皇子の秘密や、飛鳥時代に遺された歌や、歴史の謎を掘り下げたミステリと、失踪した恋人の行方や、殺人事件に巻き込まれていくサスペンスを、1つの物語として織り成していく。
また、歴史ミステリには、近代史のような生々しさとは異なる、ロマンを感じさせる古代を取り上げて、幻想的(ファンタジー)に描いており、逆にサスペンスの方では、殺人事件に加え、主人公・村久が大企業の一社員として、上層部の思惑に翻弄されるといった企業小説ような社会性の高いリアル感がある。
この幻想と現実のバランス感覚が非常に優れている。
これを可能にしたのが、著者が、史家の如く歴史に精通していることと、作家になる以前は、広告業界に身を置いていたことに由来すると思われる。
また、構成としても、プロローグでは、戦時中の日本軍がまさに神憑りとも言うべき、奇跡的な生還を成し遂げるシーンから始まり、現代で起きる殺人事件、古代の謎と、3つの時代を行き来する巧みな描き方で、劇的な時代の変化を肌で感じられる点が優れている。
それだけでなく、本書は、1984年の初出であり、24年という歳月が経過しているのだが、まるで時代を超越しているかのように、全く古臭さを感じない。
それどころか、本書では、登場人物の言葉を借りて、著者が日本(日本人)の未来を憂いているのだが、哀しいかなどれもこれも的中している点には驚きを隠せない。
著者はまるでノストラダムスというよりは、この場合、明日香の皇子の再来ようだ。(笑)
何故、今のこの時代に本書が新装版として、再び世に送り出されたのか?
単に、人気が高い作品というだけでなく、時代性を背負わされた皮肉なというか、運命の本だったからなのかもしれない。
※ これ以降ネタバレしてます。内田作品は浅見光彦シリーズで有名ですが、ノン・シリーズ作品には意外と傑作が多い。
というのも現在では、新作というとほぼ100%浅見光彦シリーズであり、ノン・シリーズ作品は、内田作品の中でもごく初期のものばかり。
初期作品は、浅見光彦シリーズも含めて傑作が非常に多く、そのせいで、作品数が少ない割には、ノン・シリーズ作品に優れたものが多いと思うのでしょうね。
ベタ褒めの本書ですが、評価は星3つ。
でも、わたくしの場合、星3つというのはかなり評価が高い方です。
4つが妥当という気持ちでもありますが、やはり、わたくしはミステリが好きなので、本書はミステリというよりは、サスペンス性の方が高い。
物語や構成は素晴らしいのですが、相性の問題ですね。
それと、これが浅見光彦シリーズだったら、良かったのかもしれないが、どうもキャラクターが立ってない。
村久が広告会社に勤務しており、その仕事振りやら、バックボーンは詳細に描かれているので、企業小説のようなリアル感があるのですが、村久自体はどうかというと、いまひとつ内面が描ききれていない。
というか、かなり杜撰。
それは、恋人の恵津子にも言えることで、会社を首になってでも、命を投じてでも行方を探したい女性か?
というと、それだけの魅力を感じない。
村久にしても、会社の同僚と麻雀する程度の日常に、いわゆる今時の若きサラリーマンが、日本を “まほろば” とするために立ち上がるわけですが、その変化が劇的過ぎ。
明日香の皇子の生まれ変わりだ! と周りからチヤホヤされて、その気になるのには説得力が足りない。
村久が持つ、ちょっとした直感も、普通の人でも有り得る程度のものだし。
また、ラストでは、財宝が隠匿されている飛鳥戸神社でのたてもこり攻防戦があるわけですが、1980年代の暴力団でも、拳銃くらい持ってると思うのですが、木刀で殴り込みっていうのはどうなんだろう?
全員が拳銃を持てるかどうかはわからないが、木刀より鉄パイプじゃないか?
しかも、地の利が無いのに、神社の電気系統を破壊、停電にして乗り込むというのは気でも違ったのかと思う。
暗視スコープ(時代的に無理だが)を使うならわからないでもないが、まずは発煙弾で燻り出すとか、やり方はいろいろあるんじゃないか?
やる事が子供だましというか、まるで不良の一団が学校を襲撃しに来たかのよう。(笑)
おそらく、著者としては幻想的な分野と同様に、バイオレンスは苦手な部分でもあるんだろうなぁ。
( ゚_ゝ゚) { 『歴史が人間に役立つのは、いまの社会が犯している過ちを修正するための鏡としてです。』 日本人の悪い癖は、すぐ忘れることなので、鏡が役立つか微妙。
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