::: ミステリ ::: ★★★☆☆
数ある内田作品、浅見光彦シリーズの中でも、群を抜いて秀でた作品だと思う。
愛国心、戦争、歴史、宗教、政治、教育といった、日本が抱える問題を、ミステリを通して描いている。
著者の戦争観、教育論が余すところなく書かれています。
とても考えさせられますし、かといって、ミステリ部分がおろそかにされることもない。
上下巻でページ数が多い分、構成にも余裕があり、とても丁寧に描いていることからも、著者の意気込みというか、作家としての情熱を感じます。
エンターテインメント性はほとんど皆無で、今回ばかりは、浅見くん持ち前の明るさも影をひそめています。
しかし、学校校長のくだらない “命の大切さ”話 を聞かされるくらいだったら、本作を読んだ方がよっぽどためになる。
※ これ以降ネタバレしてます。前半は政治的な暗いというよりは、黒いストーリー展開であり、それに加え、浅見くんもなかなか登場しないので、多少もたつきます。
その後も、戦争や宗教、教育といった難しい話が続くので、途中で飽きちゃう人もいるんだろうなと思う。
しかし今回は上下巻の長編ということもあり、主役の浅見くんだけでなく、登場人物達の視点で描かれていくので、どこでどうストーリーが繋がっていくのか楽しみでもあります。
そのせいか、主役のはずの浅見くんですか、本作ではかなり影が薄いですね。
その浅見くんは今回、彼には珍しく、人の命に関わる痛恨のミスをおかします。
彼のミスが無くても、薄々展開は読めていましたけどね。。。
飯島という老人が殺害された背景には、戦争中に、八幡神宮で盟約を結んだ人々が関わっているのですが、その孫同士が恋人同士だったり、悪の根源のような人物が落雷で天の裁きを受けるなんて、かなりご都合主義的な展開もあります。
これも天罰、神意と思えということなんでしょうかね?
著者は日本人の誰もが思う、理想の正義観を持っているが、その反面、冷静に現実も直視している。
いくら正義を振りかざしても、悪意がまかり通ることもあるのだと。
それを天罰というラストで締め括るしかなかった幕切れは、爽快さに欠け、物足りなく残念に思う。
物語の中で登場人物に、子供達が起こすイジメ、自殺、障害事件は、戦後、学校や親が、勉強させるだけの教育しかしてこなかったせいだと語らせてます。
そんな子供達の苦悩を取り去るには、命の大切さを訴えるだけでは払拭できないと。
戦前、日本が信じていた正義や善の価値観が、戦後、逆転してしまい、悪になった時から、日本は日本自身を、憎悪の対象にしてしまったとまで書いています。
その憎悪から目をそらして、がむしゃらに働き、経済大国となった日本。
そのつけがというよりも、歪みが、今の子供達の教育に、日本人に悪影響を及ぼしているのかもしれない。
物質的には豊かになったけど、心は戦争していた頃より貧しくなったのではと思う。
純粋に日本という国を愛していた時代の心を取り戻すには、日本人が、古来から自然には神が宿ると信じて、大切にしてきた、慈しむ精神を取り戻すことから始めるしかないのでしょうね。
( ゚_ゝ゚) { 『人間は自分の思いどおりに生きることは容易でも、思ったとおりに死ぬことは難しい。』 小生、思い通りにも生きられません。
テーマ : 読んだ本。 - ジャンル : 本・雑誌