::: サスペンス・ホラー・ミステリ ::: ★★★☆☆
1987年〜2008年に発表された短篇を纏めた文庫オリジナル短篇集。
近年の著者の新作にはほとんど期待をしていなかったのですが、思いのほか秀作が多くて驚いた。(笑)
10篇の短篇が収められているのですが、年代もテーマも一貫しておらず、まさに “余りモノ” という感じです。
ジャンルもサスペンス、ミステリ、ドラマ、ホラーといろいろです。
この手の寄せ集め短篇集で困るのが、書籍化にあたってのタイトル付けだと思う。
本書では、最初の作品「記念写真」をタイトルとしてます。
ですが、この「記念写真」は、ショートショートのように4ページ程度の短い作品のせいか、あまり印象に残らない。
加筆修正して、内容やページ数に厚みを持たせて欲しかったかなぁと思う。
年代ごとに1篇ずつ選ぶとしたら、
1980年代 「笛」(1988年)
1990年代 「留守番電話」(1994年)
2000年代 「窓越しの雪」(2007年)
の3篇が格別に良かったです。
ドラマ 『世にも奇妙な物語』 にうってつけのストーリーが多い。
もしかしたら既に使われているかもしれませんね。
※ これ以降ネタバレしてます。各話の感想を一言。
・「記念写真」(1987年)サスペンス・ドラマ他人から見た幸福が、本人にとっては必ずしも幸福であるかどうかはわからない。
主観と客観の相違をサスペンスにして、生を受けた者にとって生きるということ、生きているということは何よりも幸福なことであるということを描いた作品。
少女の心の葛藤がよく表現されており、道徳的な人間ドラマ。
残念なのが、もうちょっとページ数を増してでも詳細に描いて欲しかった。
・「窓越しの雪」(2007年)ドラマ家族の記憶を失った(病気・事故かは不明)老女に、彼女の夫と息子が刹那の時間、記憶を取り戻させようと一芝居打つ話。
ある意味、ハートフルでファンタジーなラブストーリーで、せつなく心温まる物語です。
本作では、老女を若い女性と読者に錯覚させるような騙しのテクニック(叙述)が使われている。
それだけでなく、老女を食事に誘った老紳士が彼女の夫であるなど、短いストーリーの中に読者を驚かせる種をいくつも用意している。
さすがは赤川次郎という感じです。
おそらくこの老女は認知症を患っていると思われます。
息子はそんな母親に、どうしても自分の結婚相手を紹介したかったのでしょう。
それと同時に、老女と夫との想い出のシチューエションを舞台劇のように演じて彼女に観せることで、夫の事も思い出して欲しかったのでしょう。
しかし、シンデレラにかけられた魔法のように、再び夫は見知らぬ老紳士に戻ってしまう悲しいラストだが、夫には悲観的な印象は感じられず、妻をいたわるようなやさしさを感じる。
・「影の行方」(2008年)サスペンス・ホラー理性と欲望の葛藤の末、破滅の道を選んだ男の話。
欲望を象徴する “影の手” が自己を凌駕して、意思に反して殺人を犯してしまうホラー。
一度、犯罪に手を染めてしまうと、目的を達成する為には容易にその手段を用いてしまうという事を暗示しているようです。
1つ疑問なのが、妻子持ちの男を誘惑していた女子高生の目的がいまいちよくわからなかった。
・「留守番電話」(1994年)サスペンス・ホラー留守番電話が敏腕マネジャーのような役割を果たすというアイデアは非常に面白い。
仕事の交渉も卓越している上に、浮気している女ともきっち別れさせてくれる。(笑)
これは著者の体験談か? と想像してしまうほど。
奥さんやり手なんですかね。(笑)
不思議な留守番電話を叩き壊したら、奥さんも頭を打って死んでいたというブラックでシュールなオチがまた素晴らしい。
留守番電話の正体は、奥さんだったということを仄めかしているのですが、奥さんが旦那の声色を使っていたのかとか、奥さんの怨念が留守番電話にのりうつったのか、などなど、細かい部分は読者の想像を掻き立てるラストになっている点も評価が高い。
・猫の手(1995年)ホラージェイコブズの短編小説 『猿の手』 のパスティーシュ。
“猿の手” というのは聞いたことはあるが、 “猫の手” というのは初めて。(笑)
“猫の手も借りたい” という日本的な発想なんでしょうね。
3つの願い事の成就には、3つの大きな代償がついてまわるという法則は、人間の欲求におけるジレンマであり、古典的なホラーではよくお見かけするテーマ。
本作では、仕事と恋人という2つの願い事が、夫の事故と死という2つの代償で相殺されている。
そこへもってきて、ラストで孫の一郎が遊びに出かけていく時にかけられた 『車に気を付けて!』 という一文が加えられることで、 “「孫の手」を貰おうかしら” という祖母の言葉に不安がよぎる。
恐怖に対する想像を掻き立てるような構成はとっても上手いですよね。
残り1つの願い事に、孫の手でなく、猫の手が有効だったら怖いなぁ。。。(笑)
・「小さな大人の事件」(1998年)ミステリ・ドラマ尊敬に値する大人がいない、未来を托せる子供がいない。
救いようの無いほどに腐った現代社会を描いた作品。
・「学校、つぶれた?」(1998年)ミステリ学校が倒産した!? という奇抜な設定。
最後のオチがいまひとつわからなかったのですが。。。
考えすぎですか?
いたずらの犯人は明でいいのかなぁ。。。?
武が体力測定の日を健康診断の日と勘違いしていたことで、容疑からはずれたと素直に受け取っていいのでしょうか?
なんだかピンとこないのですが。。。
・「十代最後の日」(1999年)ホラー・ミステリ恋人の命を助けることを条件に、十代最後の日に死ぬことを死神と約束した少年の話。
ところがどっこい、先に死神と契約していたのは恋人の方だったというオチ。
死ぬ運命にあったのは恋人の方で、少年との別れを惜しんだ彼女が、彼を道連れにすることを死神に持ちかけてたわけです。
どうなんでしょうね、このオチ。
死神の設定にムリがありません?
死ぬ運命に無い人間をいとも簡単に事故死させられるのに、元々死を約束された人間を殺すのに遠回りな手の込んだ演出が必要なのか?
ミステリとしてのある程度必要な法則性みたいなのが無いので、矛盾を感じます。
誰でも何人でも殺せるなら死神の怖さというのを感じない。
死というのは唯一、誰にでも与えられる平等で絶対的なものであり、それを司る神が死神なのに、そいつが贔屓することで神秘性というものが失われる気がする。
・「見果てぬ夢」(1994年)ホラー・サスペンスかつて心中を試みた男女。
しかし男は “生” に、女は “死” へと離れ離れになってしまう。
長い月日のあと、男は死んだはずの昔の恋人の幻に悩まされることとなる。
幻想と現実の境を行き来する男を巧みに描いている。
昔の恋人の怨念なのか、妄想逞しい女のストーカー行為なのか、読者はハラハラしながら読む事になるでしょう。
・「笛」(1988年)ドラマいわゆる不条理小説。
本書で一番評価が高い作品。
ミステリでなければ、サスペンスでもない。
人間ドラマを描いた優れた道徳的な作品だと思う。
権力を笠に着るという言葉があるが、程度の差はあれど人は傲慢になる生き物なんですね。
本作では、権力の象徴が笛であり、その笛を子供に託すときに主人公が言った言葉が印象的だ。
“うるさいから、あんまり鳴らさないようにね。─本当に鳴らさなきゃいけないときだけ鳴らしておくれ。”過ぎたるは及ばざるが如しってことですかね。
そして、死を連想させるラストは哀しい。
死というのは、幸福を感じている時に間々やってくるというのが皮肉でもあります。
( ゚_ゝ゚) { 『あなたの背後に潜む、十の恐怖。』 珠玉の短篇。
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