Bk.059 双頭の悪魔

23:48 Sun 27.07
双頭の悪魔 (創元推理文庫)双頭の悪魔 (創元推理文庫)
(1999/04)
有栖川 有栖

商品詳細を見る


::: ミステリ ::: ★★★★★


学生アリスシリーズの3作目。
3作目にして最高傑作と謳われている作品。
3作目にして集大成と言われちゃっている作品。(笑)
わたくしが所持しているのは文庫版ですが、680ページを超える大作でもあります。
今でこそ、枕にでも使えそうなぶ厚い小説は珍しくもないですが、わたくしが初読した当時はかなり珍しかった。
今回は、2007年にシリーズ4作目 『女王国の城』 が刊行されたこともあり、復習がてら再読。


本書のあらすじは、前回の事件(『孤島パズル』)で初登場したアリスの同級生であり、推理小説研究会のメンバーでもあるマリアが四国へ家出をしたことから始まる。
家出の原因は、 『孤島パズル』 での事件で傷心したことによるのだが、彼女を連れ戻して欲しいという依頼を彼女の父親から受けた江神とアリス、織田と望月の推理小説研究会のメンバーは、まずは夏森村へと向かう。
マリアは、夏森村と架橋のみで行き来ができる木更村という村にいた。
木更村は、現当主の木更菊乃が私財を投じて運営している、芸術家の卵を育成することを目的とした村であり、私有地のメリットを活し、外界と隔絶した生活を送っている。
木更村の住人にマリアとの面会を要求した江神らだが、徹底拒否され、嵐の隙をついて木更村に強行突破を試みる。
運良く江神だけは、木更村に立ち入ることを許されたが、アリスと織田、望月は夏森村へと追い返される。
その直後、木更村と夏森村を結ぶ唯一の架橋が、土砂崩れによって崩落してしまう。
木更村と夏森村を繋ぐ唯一の道が閉ざされただけでなく、電話線までも断裂し、通信手段も失ってしまう。
木更村は、陸の孤島と化した。
そんな最悪な状況の中、木更村と夏森村のそれぞれの村で、殺人事件が発生する。
木更村では、江神とマリアが、夏森村ではアリスと織田、望月が、事件を解明しようと試みる。。。


学生アリスシリーズでは、クローズド・サークルで殺人事件が起こるという設定が特徴。
『月光ゲーム』 ではキャンプ地での噴火、 『孤島パズル』 では避暑地の孤島での嵐で、それぞれ外界と隔絶された状況下で事件が起きる。
本書も陸の孤島と化した木更村が舞台となる。
しかし、前作の2作と異なるのが、メインの舞台である木更村だけでなく、夏森村でも殺人事件が起きる。
また、お決まりの “読者への挑戦” が3つもあるサービス満点の趣向。
2つの事件を、アリスの章(夏森村)とマリアの章(木更村)とで、交互に読み進めるというややこしく、もどかしい構成。
事件の真相を知りたい一心で、必死にページを捲りまくるのです。(笑)


初読した時の感想は、当時、エラリー・クイーンの存在を知らなかったこともあり、傑出した作品に、ただただ驚愕したという記憶がある。
それまで読んできたミステリの中でもダントツに良かった。
わたくしは著者の作品と出会うことで、以後、本格ミステリにのめり込んでいくわけです。(笑)
今回、再読をしてみて、当時の評価とは微妙にずれを感じました。
もしかしたら、ミステリの面白さとしては、 『孤島パズル』 の方が優れているのではないか。。。と。
アガサ・クリスティのミステリのように、華やかでバカンス気分の中で起きる事件。
舞台設定自体が魅力的であり、そこで起きる殺人事件の謎とそのトリックも卓越していた。
本書の場合、トリック自体はそう驚くようなものではないし、本格ミステリを読みこなしている人であれば、解けそうな気がするんですよね。
『孤島パズル』 では、星4つの評価をしました。
実質、本書も星4つが妥当かなぁと思うのですが、初読した時の衝撃が忘れられないのが1つ。
もう1つは、本の内容(ミステリ)だけが面白けばいいのかということを考えた時に、小説家としてのテクニックや、構成力という点に於いても、著者の才能が発揮されており、ミステリをより一層読者に楽しませるための相乗効果としても十分効果的だと思う。
付加価値としての部分に評価出来たので、満点(星5つ)にしちゃいました。(笑)















※ これ以降ネタバレしてます。







































本格ミステリの醍醐味でもあるトリックの面白さからいったら、 『孤島パズル』 の方が優秀に感じた。
特に本書では、鍾乳洞でのトリックで用いられた、香水の使用目的がわかりやす過ぎるのが気になる。
あまりにもバレバレなので、敢えてそうしたのだろうことはわかるが、その反面、殺害された画家・小野が嗅覚に障害を持っている事実に関しては、かなり後から発覚する。
小道具としての香水の使用目的が、あからさまに読者にわかるのに、物語ではなかなか結論に辿り着かないのは読んでいておかしいと感じる。
犯人は、迷路のような広い洞窟で、香りを道しるべにしたことは予想の範疇であり、その香りに何故、小野が気づかなかったのか、身近に生活を共にしていた住人はもちろん、小野と結婚を予定していた木更菊乃に、すぐにも江神さんが訊ねていないのが腑に落ちない。
また、読者ですら想像できる状況に、江神さん以外の登場人物が誰も気づかないのも疑問。
読者としては、小野は風邪をひいて鼻が効かなかったとか、いろいろ考えるわけで、そこを言及せずに、物語の後半になってようやく嗅覚障害という事実を持ち出されても困る。。。
江神さんが言及しなかった事で、読者は別の目的で香水が使用されたのかもしれないと、推理をスイッチしちゃってますからね。。。(´ー`)┌

他にも、陸の孤島といってますが、橋以外にも交通手段があるんじゃないかと思えてならなかった。
これが海に浮かぶ島だったら、犯人が限定できますが、本書では木更村の詳細な立地について書かれていない。
橋が唯一の交通手段とはいうものの、普通に山道とかあるだろうし、夏森村じゃ無理だけど、木更村に隣接している他の村からだったら行き来や、潜伏も可能のような気がする。

本来であれば、読み進めていくうちに、消去法でどんどこ否定できる部分は切られていくんですが、なかなか否定しきれない部分が残っている。
読み手の感性の問題もあるのかもしれないが、細かいことがいちいち気になる人には謎解きは難しいかもしれない。


今回の事件の犯人・香西琴絵(調香師)は1度に自分の手を汚さずに、巧みに2人の人間を殺すという、まさに “双頭の悪魔” の仕業にふさわしい人でした。
その動機は、小野と木更村当主・菊乃が結婚をすることで、これまでの生活が一編することに反発を覚えたからというもの。
本来であれば、小野だけ殺せば事は足りるのだが、ややこしい交換殺人を計画し、しかも他の人間に実行させた。
そのせいで、木更村と夏森村の殺人における動機にさんざん悩まされる。(笑)
交換殺人なんだから、実行犯に動機がないのは当然だよね。。。(´ー`)┌
しかし、著者のミステリの場合、社会派ミステリと異なり、動機を含めて人物描写を重視していないため、以外と著者の作品を読みなれている人ほど、本書の謎解きが難しいともいえる。
というのも、著者のミステリでは、犯人の動機が殺人を犯すほどの重大性を感じなかったり、犯人が犯行の自白時において、とってつけたような後付けのような動機のものが多いので、謎解きにおいて動機を重視する意味をなさないから。
著者の作品を知っていれば知っているほど、動機の重要性を無視しがちである。
わたくしも端から動機なんて無視して読み進めていたので、交換殺人なんて思いもしなかった。

しかし、いつも思うのだが、動機という点で緩い気がしてならない。
琴絵にしたら、誰もが絶賛するようなハーブ園や、香水を作れるんだから、別に木更村でなくても成功すると思うし、そもそも、調香家とかいってますが、これって芸術といえる分野なんですかね?
画家や音楽家、歌手の集まりの中で、1人だけ毛色が違うので、最初からマークされそうな人物設定ですよね。
それと、実行犯の1人、雑誌記者を殺した男は、菊乃の親戚という設定であり、菊乃が小野と結婚すると、財産を皆小野に取られてしまうのではという疑念が殺害の動機。
これも親戚程度で財産どうのってことに、首を突っ込むもんなんですかね?
菊乃の子供とか、兄弟だったらわかるけど、端から財産分与に期待が薄い親戚レベルでは実感がわかない。
1番よくわからなかったのが、木更村に逃げてきたアイドルに恋した作曲家ですよ。
著者の人間描写がいまひとつなのはわかりますが、人を殺すわけですから、アイドルとの恋愛にもっとドロドロしたものがあって普通なんではと思う。
思ったよりサラっとしていて、プラトニックなので、この2人の距離感で殺人事件まで発展するとは思えない。(´ー`)┌
こんな浅い人間描写なのだが、江神さんの描写だけはかなりどよ〜んと重かったりする。
恐ろしくも卑劣な双頭の悪魔に引導を渡す役を自らかってでたわけですから、どよよ〜んとなってもらわないと困るが。。。(笑)










(  ゚_ゝ゚) { 『推理研のスナフキン』 わたくしはスナフキンが好きだから、江神さんのことも好きなんですね。。。







Bk.046 孤島パズル

02:50 Fri 06.06
孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)孤島パズル (創元推理文庫―現代日本推理小説叢書)
(1996/08)
有栖川 有栖

商品詳細を見る


::: ミステリ ::: ★★★★☆


学生アリスシリーズの2作目。
2007年に待望のシリーズ4作目 『女王国の城』 が刊行されたのを機に、復習を兼ねて再読を始めました。
初読から15年くらい経過しているせいもあり、内容をすっかり忘れていた。
シリーズ1作目の 『月光ゲーム』 は、2007年の10月に再読したのですが、本書はそれから半年以上も経過した2008年6月という悲しい現状。。。(笑)
最新刊はいつになったら読めるのやらです。


『月光ゲーム』 に関しては、初めて読んだ時も、再読した時も、個人的な評価はそんなに高くないんですよね。
特にもたつき感というか、読みづらさを感じたことで、良い印象がないのかもしれない。
ただ、デビュー作品ということで、星4つの評価だった。
実質は星3つが妥当かなと。。。

本書は、素直に星4つをつけたいと思う。
何が良かったかと言えば、やはり推理小説としてのロジックが際立って良い。
学生アリスシリーズの特徴というのは、クローズド・サークルでの殺人事件。
隔絶された場所で連続殺人が起きる、という本格ミステリ好きにはたまらない古典的な設定です。
『月光ゲーム』 では、キャンプ地で山が噴火し、下山ルートが塞がり脱出不可能になるという設定でした。
本書ではタイトル通り、避暑地の孤島で連続殺人が起こります。
アリスの友人・マリアの招待で、総勢13人の来客が集う嘉敷島にやってきた、英都大学推理研究会の江神部長とアリス。
バカンスを兼ねた宝捜しに挑戦するはずだったが、嵐の到来と共に連続殺人事件に巻き込まれます。

本書の面白さは、サービス精神旺盛な点。
江神部長とアリスの本来の目的は、嘉敷島に隠されているとされる数億円のダイヤを探すという宝捜しである。
殺人事件の謎も大事だが、取っ掛かりでもある宝捜しの謎がおろそかになっては興醒めになるところ。
大概の小説では、殺人事件の発生と共に、当初の目的は物語のきっかけなだけに、うやむやにされてしまうことが多いが、本書の場合、どちらも手を抜かない十分満足のいく出来であることが素晴らしい。
また、宝捜しの謎の他に、密室殺人の謎、ダイイングメッセージの謎など、ミステリではお馴染みの謎がふんだんに用意されている。
言うまでも無く、本書で重要な謎は、アリバイトリックでもある。
1冊でこれだけのミステリの醍醐味を味わえるサービスぶりだ。
さぞや、仰天の結末を迎えるのだろうと想像しがちだが、思うほど派手なトリックはない。
派手でないからこそ逆に驚愕の真相だったともいえる。
著者のミステリは複雑怪奇なトリックではなく、シンプルでエレガントなのが特徴である。
著者のミステリを読んでいると、本格ミステリというのは、よりシンプルであろうとすればするほど、ロジカルにならざるをえず、より論理的であろうとすればするほど、単純でなければならない。
そんな印象を受ける。
マジックでも、檻の中のトラが一瞬で消えるよりも、手の中のコインが一瞬で消える方のが断然不思議に思うのと同じことかな。

シンプルだからこそ気づけない意外性。
シンプルなのに気づけなかった不思議さ。
それが本書の、著者のミステリの面白さなのかもしれない。


学生アリスシリーズの特徴としては、ミステリ小説の面白さだけでなく、青春小説としても楽しめるところにある。
普通のミステリ小説で登場してくる探偵や刑事というのは、犯人を暴き出し糾弾する。
それを見つめる読者も拍手喝采なわけです。
傲慢で無慈悲な犯罪者にはお似合いな場面かもしれないが、そうでない犯罪者もいたりする。
横溝正史原作の “金田一耕助シリーズ” ではそういった場面にでくわす。
その時の探偵・金田一は思いのほか犯人に対して優しい。
優しいというよりは、1人の人間として真摯に犯人と対峙する姿にわたくしは非常に惹かれる。
さらに、多くの被害者を出した犯人を責めるより、自分がもっと早く真相にたどりつけていれば、と己のふがいなさを後悔したりする姿勢もとても共感できる。
人によってはそれこそ傲慢だよと思われるかもしれないが、彼は、犯人を捕まえるために推理するのではなく、犯人に罪を重ねて欲しくないが為に推理するのではないかと、わたくしには感じられる。
罪を憎んで人を憎まず、という考えが金田一の中にあり、犯人とはいえその人権や人格までも否定しない優しさが、多くの読者に好まれるのではないでだろうか。
江神部長はというと、彼も金田一に負けじおとらず優しい男なのだ。
一人称は “俺” で、アリスには何かと命令口調で男らしいのだが、中身は非常に慎重かつ繊細。(笑)
金田一のような気質を持ちつつ、到達した推理が真相でないことを願うあまり、アリスに謎解きの反論役をさせたりする。
推理研究会の部長であることからも、彼がミステリを非常に愛している事は明らかで、ミステリを読む楽しさ、推理する面白さをよく知っている。
と同時に、人並みはずれた洞察力、推理力で殺人事件の謎を解き明かす能力も備わっている。
本人にしてみれば、耐えがたいジレンマなのではないかと思う。
推理する欲求を満たそうとすれば、必ず、悲劇を生むしかないのだから。
推理の先に江神部長やアリスが迎えるものが悲劇であり、それを真正面から受け止めてしまう彼らの姿に、センチメンタリズムを強く感じる。
そこが本書が青春小説としても評価できる稀有なミステリといえる。















※ これ以降ネタバレしてます。








































ベタ褒めの本書ですが、2つ3つほど、言及せねばならない難点もある。
最も重要なのが、第二の殺人。
魚楽荘で平川画伯がライフルで撃たれ殺害される事件がある。
この時、江神部長は、望楼荘の住人のアリバイはもちろん、3台の自転車のアリバイについてかなり執拗に検討します。
確かに、死亡時刻や、住人のアリバイから考えると、犯人が徒歩で移動するというのは考えられない。
だから自転車、という直結した考えはいかがなものか。
本書には、嘉敷島の地図が挿入されており、その三日月型の地形を見たら、望楼荘から魚楽荘まで泳いで渡るという可能性も十分に考えられる。
自転車を検討すると同時に、泳ぐという選択肢についても言及してないと不自然ではないだろうか。
現に、わたくしは自転車よりも泳いだ方が早そうだと考えましたしね。

余談ですが、地図には引き潮岬(望楼荘側)、満ち潮岬(魚楽荘側)といういかにも怪しげな岬があり、わざわざ岬に名前までついていることを考えると、ある一定の時間であれば、歩いて渡れる可能性もあるのかも。。。とか、殺害前に泳いで渡る時、殺害後に戻る時に潮の流れが変わり、ほんの短い時間で移動可能だったりして。。。などと考えてしまうが。。。(笑)


次に、凶器のライフルについてなんですが、犯人は、第一の殺人を成し遂げると、翌日、昼間にボートでライフルを魚楽荘まで運び隠したとあります。
それには、望楼荘でライフル探しを始められ、見つけられでもしたら困るからであると。
確かに、ライフルを探すという行動は有りえるのですが、何も、屋敷に隠す必要はないはずで、あらかじめ地面を掘って隠し場所を作っておけば良いと思う。
隠し場所に困るような土地ではないのに、わざわざ次の殺害場所まであらかじめ運んでおくというのは、計画的というよりは見切り発車に思える。
もし、突発的に平川画伯が夜に再び望楼荘に戻ってきたら計画が台無しですよね。
現に、アリスとマリアがボートを使えなくしてしまったという犯人にとって思ってもみなかったアクシデントが発生したわけで、計画はあくまでも計画でしかない。
アクシデントで泳いで移動しなければならなくなったが、ライフルだけは先に運んでおいて良かった。。。なんて都合よくないですかね?
物語上、トリックを成立させるためには、仕方が無いのでしょうけど。
ボートで魚楽荘まで食料を運ぶついでって言われてしまうと、納得しないわけにはいきませんが。。。


もう1点は、第一容疑者といえる人物が、やはり犯人だったという人物に対するフェイクが無さすぎた。
明確な動機を持っている人物が1人しかいない。
ただ、マリアが夜中にボートに乗ろうとアリスを誘うシーンは、すごく怪しかった。(笑)
もしかして、マリアが犯人か。。。と。
おそらく読んでいる人は、一瞬マリア犯人説を予期したと思う。
著者としてはそれでフェイクは十分だと思ったのでしょうね。

また、本書では、アリスが語り手となっているせいで、アリスが関わった人物、接触した人物しか表に登場してこない。
その為、大概が江神部長とマリア中心に物語が進む。
他の登場人物達は、死体発見時か、事件後にアリバイを訊ねるシーンでしか主に登場してこない。
裏を返せば、アリバイ証言さえあれば良いだけの人物は、犯人ではないと考えることもできる。
必要以上な行動で目立つ人物が最も犯人らしいのかと。。。
13人という大人数をうまく動かしきれていないところが残念に思う。



いくつか難点を挙げましたが、全体としては秀逸な作品だと言える。
自転車のタイヤの跡がついた紙一枚で、目から鱗な謎解きをしてみせた著者はすごいと思う。
進化するパズルの謎解きなんか想像も出来なかった。
というか、実際に点書いて、線書いて。。。なんてやろうとも思わなかった。。。(笑)
だめですね。。。
アリバイトリックも含めて、もっと地道に粘り強く謎解きにチャレンジしないと。(笑)








(  ゚_ゝ゚) { 『お前にはとめられんかったな』 若き部長の嘆き。







テーマ : 読んだ本。 - ジャンル : 本・雑誌

Bk.084 月光ゲーム Yの悲劇’88

23:56 Sun 21.10
月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)月光ゲーム―Yの悲劇’88 (創元推理文庫)
(1994/07)
有栖川 有栖

商品詳細を見る


::: ミステリ ::: ★★★★☆


有栖川センセの記念すべきデビュー作品。
著者は、綾辻行人らといった80年代後半から、90年代にかけて脚光を浴びた、新本格派世代のミステリー作家。
常に質の高い本格ミステリを提供しています。


新本格ブーム全盛期の頃、わたくしはというと、あまり読書をしていなかった。
当時は、カラオケ全盛ですよ!
音楽も大好きで、幸運にも音痴ではなかったので、仕事が終わればカラオケ三昧。
休日などは待ってましたのカラオケ日和で、本なんて読んでる場合じゃなかった。┐('〜`;)┌
たまに本を読む時は、赤川次郎や、宮部みゆきをよく読んでいましたが、2時間サスペンスの影響で、内田康夫に転向していった。
今でもよく読みますけど。
なので、ミステリ界の時流に全く乗れてなかった。
そんな中、じょじょにカラオケ熱も醒めて、図書館通いが始まった頃に、今でこそ、 『このミステリーがすごい!』 が年末の風物詩みたいになってますが、当時、ミステリのガイドブックのような本は見かけたことが無く、珍しさからも目にとまって興味本位で読んだ。
そこに、綾辻センセの 『十角館の殺人』 と本書の解説が掲載されていた。
他にも名立たる作家の名作がズラリと載っていたのですが、とにかくあらすじに興味が湧いた。
すぐに本屋に飛んでいき、買って読んだのが出会い。
本屋では偶然、本書の3作目である 『双頭の悪魔』 が文庫化されて店頭に平積みされていた。
2作目の 『孤島パズル』 も合わせて一気に買って、一気に読んだ。
仕事中もこっそり読んだ!(笑)
それくらい人生変えたといってもいいくら衝撃的な出会いでしたね。
ちなみに、綾辻センセの “館”シリーズも大人買い。。。┐('〜`;)┌

よくよく奥付を見たら、単行本で刊行されたのが1989年、文庫に落ちたのが1994年と5年もの開きがある。
わたくしの手元にある本書は、版を重ねること21回の1999年もの。。。
オソッ。 自分、気づくの遅すぎだよ。(´ー`)┌
つまり、本書が世にでてから10年という長い月日を経過して、やっとこわたくしの手に取られたというわけです。
感慨深いなぁ。。。



肝心の内容ですが、著者はエラリー・クイーンを敬愛しており、著作のほとんど全てがEQ風のミステリである。
本書の副題でもある “Yの悲劇’88” や、後半で登場してくる “読者への挑戦” など、オマージュ以上の愛(笑)を感じる。
EQだけでなく、推理小説そのものが本当に好きなんだなぁと感じるほどのオタクぶりが展開されてます。。
純粋さ、誠実さがひしひしと読み手に伝わってくる。

今回は、およそ10年くらい前に、1度読んだだけで、新作 『女王国の城』 を読む前におさらいということで再読でした。
シリーズとしては、新作を含め4作あるのですが、その中でも本書は当初、好きなほうではなかった。
再読して、読みづらさというのは、当時と現在とでの読書経験が違うので、ほとんど解消されていたが、 “つかみ” は相変わらず悪いと感じました。
ミステリにもいろいろあると思いますが、大抵のミステリ好きは、事件が起きなければ何も始まらないと思っている。
そこまで辿り着くまでに、延々と学生達のキャンプの情景だとか、恋バナとか、読まされてる読者は正直つらい。
ただ、本書は、ミステリであると同時に、青春小説としての側面も持ち合わせている。
本書は一般的に、学生アリスシリーズ(または江神シリーズ)と呼ばれ、著者と同姓同名の有栖川有栖という大学生が主人公の作品。
先輩である江神二郎が探偵役であり、アリスがその助手という役回り。
登場人物たちが学生ということもあり、青春ミステリとしての度合いが強い。
それに、サスペンス、アドベンチャー、ロマンスといった要素もふんだんに取り入れられていて、著者の作品の中でもこのシリーズの人気は高い。
ただの謎解きミステリではないので、そこだけ楽しみたいという方には、退屈かもしれません。

文句なく星5つと言いたいところですが、殺人の動機、登場人物の多さに比例した描き分けに難あり、ということで、星4つとなりました。















※ これ以降ネタバレしてます。






































デビュー作品ということもあり、作家自身の初々しさみたいなのが文章のそこかしこから垣間見えて、ぎこちなさも新鮮に感じましたねぇ。(笑)
文章やキャラクターも好感が持てる。
特に、江神さんてあんなに頼りがいのある人でしたっけ?(笑) と思ったりする。
作家アリスシリーズの火村さんと、似てることは似てるけど、大学生の江神さんのほうが達観した大人な印象を受ける。


ミステリとしての面白さは語るまでもないですが、難点を挙げるとしたら、やはり、犯人・年野武の動機と、多数の登場人物の2点でしょうね。
武の恋人・小百合がクリスチャンとはいえ、酔っ払いの学生2人にからかいを受けただけで、自分が半ば強引に連れてきた2人の女子学生を置き去りにして、さっさと1人で下山しちゃうという女性の描き方も問題だが、小百合が噴火による土砂崩れに巻き込まれたと、勝手に死んだものと判断し、からかった学生を短絡的に殺害しちゃう武も、とても法学部の学生とは思えない。
普通であれば、生死が確認された時点で、殺害計画を練るでしょうね。
クローズド・サークルで人殺しなんて、自分の首を締めるようなおろかな行為ですから。
それと、とにかく登場人物が多くて困りました。(笑)
誰が犯人だって考える以前に、こいつは誰で、どのグループの人? と混乱しっぱなしで、犯人探すのも大変。
フルネームだけでなく、ニックネームもあるのでわかりずらい。
わかりずらい原因は、やはりキャラクターの描き分けが出来ていないせいもある。
死者4人に、犯人を含めて5人を犠牲者とすると、その倍くらいの目くらましの人数が必要だろうなぁくらいはわかるが、総勢17人はとてもじゃないが覚えられない。。。(´ー`)┌
ミステリとしてのつかみの悪さも考えると、デビュー作品とはいえ、初めて著者の作品を読む人には向かないと思う。


本書は、本格ミステリの王道中の王道。
クローズド・サークルに、ダイイング・メッセージと、あらすじを読んだだけでワクワクしてくる。
クローズド・サークルといったら、 “吹雪の山荘もの” とか、 “嵐の孤島もの” といったシチュエーションが有名ですが、本書では、火山の噴火という大胆な発想。
ありえない設定ではないが、奇抜かもしれない。
ただ、噴火の恐怖というサスペンス性や、危険地帯からの脱出といったアドベンチャー要素が取り入れられており、ミステリだけでない面白さがある。
殺人事件を解明する主人公が “ただの学生” であるというハンデを、クローズド・サークルという隔絶したシチュエーションにすることで帳消しにしている。
警察や科学捜査が介入できなければ、確定的な論証が得られないので、犯人が断固として否定すれば成り立たないのですが、素直に自白してくれる都合の良い犯人でよかったです。(笑)
それだけに、いかに論理的に謎を解明できるかが本格ミステリーの醍醐味でもある。

ダイイング・メッセージの “Y” に関しては、当時は賛否両論あったそうですが、わたくしは “と” を書きかけて “Y” のようになってしまったという設定に無理はないと思う。
どっちかっつ〜と、 “と” は大文字ではなく、小文字の “y” に近いと思うが。。。

被害者が犯人の名前を残そうとして、苗字の一文字目の “と” を書く途中で絶命したのですが、犯人の苗字は、 “としの” ではなく、 “ねんの” だったというオチ。
それが皆、 “Y” に見えてしまったから余計ややこしいダイイング・メッセージとなってしまった。
まぁ、 “と” って書けても、やっぱりなんだかわからなかったと思うが。。。(笑)
冒頭から、気にはなってたんですよね。
登場人物達が学生だからでもあるのですが、お互いニックネームで呼び合っていた。
友達ならわかるのですが、出逢ったばかりの人を、あっさりとニックネームで呼び合えるかなぁ? というのがわたくしの感想だった。
これから長い付き合いになりそうだという雰囲気ならわからなくもないが、ニックネームで呼び合わせることで、読者の目を苗字からそらせようとしていたんですね。


わたくしが1番感心したのが、犯人が夜中に北野勉を殺害し、手についた返り血を川で洗い流したが、誤まって懐中電灯を壊してしまい、仕方なくマッチを擦り、松明代わりに足元を照らし、殺害現場に戻るというシーンなんですが、川に行く時にマッチが使われたのではなく、川から戻る時に使われたという逆転の発想は目から鱗だったのですよ。
その論拠は、マッチの軸に血がついていなかったから。
上手いなと思ったのが、マッチの軸に血が “ついている” か、 “ついていない” かという事実を言明していないこと。
“ついていない” という事実が強調されてしまうと、そこから一気に犯人まで到達してしまう可能性があり、読者には絶対に気づかれず、かつ、推理に必要な情報だけを残すように伏線を張る必要性がある。
そこで、マッチの軸を見た登場人物達に、血痕に関する発言を一切させないことで、違和感なく自然と読者に “普通” のマッチの燃えカス、というイメージを刷り込んでしまうというテクを披露しています。
普通、人間は “ない” ものを無いと言葉に出す人はいない。
登場人物達は、 “マッチの燃えカス + 血痕” という非日常的なモノを見なかったからこそ、言葉にしなかったんですね。
その登場人物達の言動を勝手にというか、自然に読者が想像することで、ただのマッチの燃えカスのイメージを共有させることに成功している。
ただ、江神さんのように、それが、犯人につながる重要な意味を持っていることに気づくかどうかは読者次第というわけですね。

しかしながら気になる点が1つ。
犯人は血のついた手形を被害者の服につけてしまっている。
だったら、手についた返り血を被害者の服で拭うことも出来たと思うんですよね。
そうなると犯人を特定する論証がなくなってしまうんですが。。。
“マッチの謎が解ける = 犯人がわかる” という簡単な図式なだけに、著者としては絶対に解かれては困る部分だったということなのでしょうか。

それと、犯人が、小百合の指輪がはまって抜けなくなった尚三の指を切り落として、望月のカメラのフィルムを装填する部分に隠したという設定、これは必要だったのかが疑問。
確かに衝撃的なシーンだとは思う。
インパクトのある謎がもう1つ欲しいという気持ちはわからなくはない。
アイデアはすごいと思う。
ただ、恋人の大切にしていた指輪を捨てきれない心情は理解できるが、指ごとわざわざ他人の所持品に隠す意味がわからない。
後で回収することを考えたら、得策ではないことは明らかですしね。
それならば、林の草むらの中に埋めておいた方がまだまし。
その殺された尚三の遺体だけなぜ犯人は隠したのか、この点は良かったと思う。
指を切り取ったことで、疑惑が犯人に向けられるし、殺害後、噴火が起きているため、灰が遺体に降りかかることで、殺害時刻を特定されるのを防げるから。


いろいろ考え出すと、ダメ出しが多くなっていきそうで、星4つの評価も怪しげですが、好きだからいいか。(´v`)









(  ゚_ゝ゚) { 『フェアプレイで読者に挑戦する日本のクイーン』 よっ、ロジック王。







テーマ : 読んだ本。 - ジャンル : 本・雑誌

 BLOG TOP