::: ミステリ ::: ★★★☆☆
石崎作品デビューです。
嵐の孤島(クローズドサークル)に、見立て連続殺人と聞いたひにゃ、こてこてのシチューエションに弱いわたくしは読まずにいられない。(笑)
ちょっと心配だったのが、著者は、2000年にメフィスト賞作家としてデビューしたのですが、その後、著作は本書を入れて、5冊しかない。
しかも、本書以外の4冊は、
“入手不可” という脅威の再版無し歴の輝かしい実績を持っているということ。。。
しかしながら、蓋を開けてみたら、意外や意外、真っ当な本格ミステリだった。(笑)
特にトリックのアイデアには驚かされます。
目覚しい科学捜査の発展により、本格ミステリを書くことが困難になってきているだけに、それを逆手に取ったトリックは、目から鱗もんでした。拍手喝采です。
どんなに技術が進歩しても、その時代に適応したミステリは書かれていくものなのだと、安心しました。
※ これ以降ネタバレしてます。冒頭からいきなり、 『鎌倉と湘南の伝説』 なる怪談・伝承本の一部内容と、怪談専門Webサイトの掲示板の書き込みの一部を抜粋したものを読まされる。
続いて、誰宛に書かれたものなのか不明な、宛先人の出自について話合いがしたいという内容の手紙が、プロローグとして書かれている、おもわせぶりな構成。
これは、叙述的な手法のメタ・ミステリで攻めてくるのかと思っていたが、結果的にはあまり効果的な演出とはいかなかったように思える。
ただ、 『鎌倉と湘南の伝説』 なる伝承本の後付けを見た瞬間、
“著者寄贈” という印刷が異様に気になった。(笑)
著名な作家ならまだしも、無名の作家(しかも自費出版)が寄贈などという、押し付けがましい真似を普通するかなぁという気がしてならなかった。
読了して初めて、その “著者寄贈” という違和感のある言葉に膝を打ったのですがね。(´ー`)┌
本書の主人公であり、探偵役として登場してきた稲口を主軸に物語が展開していく。
出版社に勤めている稲口は、怪談特集の記事を書くため、昔から首鳴き鬼の伝承が残る頚木島に渡る。
まず、この設定から引っ掛かったのが、頚木島は私有地であり、そこの主人でもある竜胆慎一郎は、これまで取材等の申し入れを頑なに拒否していた。
外部の人間を一切近寄らせなかったというのに、何故か、稲口の取材の申し入れを許可したことが気になった。
しかも、その真意について誰も触れていないのだ。
この時点で、慎一郎という人物は何かを画策しているのではないかと疑いたくなる。(笑)
さらに、稲口の取材に強引に同行しようとする大学時代の友人・神合茜。
大学でのミステリ(オカルト系)サークルに、稲口と共に参加していたということなのだが、その活動にはほとんど参加しておらず、興味がないことは明らかである。
それが突然、取材に同行させろとしつこかった。。。
わたくしは、竜胆慎一郎と、神合茜が怪しくて仕方が無かった。(笑)
その後、田部井、鈴森と殺人が行われると、さらに、竜胆家の親族と思われている牧村美紗子も胡散臭いと思い始めてくる。
犯人像が絞り込めずに苦戦した。(笑)
ここ数年、犯人は単独犯であるという傾向のミステリばかり読んでいたせいか、共犯者の存在を無意識に否定していた。
しかし、慎一郎が殺害されたと思われた時点で、共犯者の可能性を疑いだしました。
首が無く、死体に服を着せられていた点と、停電中の懐中電灯という狭い光源のみでの死体確認などから、死体の入れ替えが十分可能だと思った。
決定的なのが、遺体の移動が行われているため、女性単独での犯行は無理だろうと思った。
慎一郎と茜が犯人なんじゃないかと思っていたのですが、結果的には、慎一郎(主犯)と美紗子(共犯者)が行った犯罪だった。
そこには、DNA鑑定を利用したトリックがあったわけです。
このDNA鑑定について、本書でやや眠たくなるような講義を聞かされます。
というか、読まされます。(笑)
読んで理解していても、騙される。
そのしくみは結構ややこしいのですが、通常DNA鑑定とは、細胞の核内にある染色体から親子関係を調べる。
人間の染色体は、23対あり、1組づつそれぞれ両親から受け継ぐ、その特性を親子鑑定で利用している。
しかし、本書では、
“余談” としながらも、細胞内のミトコンドリアからもDNAを調べることができると解説。
ただし、この染色体は、母親ものしか遺伝しない、母系遺伝なのだそうです。
本格ミステリでは、しばしば、死体の入れ替えトリック出てきますが、指紋にしても、筆跡にしても、どうにかごまかしようがあったトリックでも、DNA鑑定という科学捜査の前になす術も無かった。
ところが、本書ではそのDNA鑑定を逆手に取って、死体の入れ替えをやってのけた。
このトリックは現実的に考えて可能かどうかは別として、その発想の転換こそが驚愕であり、素晴らしい。
牧村美紗子と長瀬が親子関係にあり、長瀬を殺害し、竜胆慎一郎が殺害されたかのように偽装工作し、互いを入れ替えることで、死体の入れ替えトリックが完了するというからすごい。
一見するとシンプルな構造なのですが、実際それを実行しようとなると途端に複雑さを増す。
まず、首鳴き鬼の見立てを装った連続殺人と見せかけるために、田部井と、鈴森、槌田を殺害する。
その後、竜胆慎一郎が殺害されたと見せかけるために、槌田の遺体に竜胆慎一郎の服を着せて廊下に転がしておく。
長瀬が生きていたこと、竜胆慎一郎が死んだことを全員に認識させた後は、槌田の遺体を元の彼の部屋に戻し、長瀬を殺害後、屋上で焼いてしまう。
かなりの体力と、機動力を必要とします。(笑)
そもそも竜胆慎一郎がこんな突拍子もない犯罪を計画した動機は、竜胆家の束縛から逃れたいというものだった。
しかし、単純に失踪しただけでは、息子としての慎一郎より、竜胆家の跡取を欲していた父親に執拗に捜索される可能性が高い。
そこで、誰もが納得できる(便宜上血の繋がった)親族をあてがう必要あった。
ここで竜胆慎一郎と牧村美紗子、そして、牧村美紗子と長瀬の面白い関係性がみてとれる。
慎一郎と美紗子は、表面上は血の繋がった親子という関係性でなければならないが、科学的には親子関係でなくてもかまわないのに対して、美紗子と長瀬はその逆で、表面上は血の繋がっていない他人でなくてならず、科学的には本物の親子関係でなければならない。
対角線上に位置する慎一郎と、長瀬が入れ替わり、ちょっとした工作を付け加えることで、DNA鑑定を無効化してしまった。
ところが、ミトコンドリアDNA鑑定が浮上した時、DNA鑑定の盲点が、犯人と探偵(著者)にとっての命運を分ける綻びになった。
母系遺伝であるミトコンドリアDNA鑑定が行われば、慎一郎と信じられていた遺体が、長瀬の遺体であることが判明するからだ。
犯人にとっては思いもおよばなかった
“落とし穴” 、痛恨のミスであるが、探偵(著者)にとっては、必要不可欠な
“落とし所” 、あえて作った綻びというわけだ。
このトリックを成立させるためには、美紗子の役割はどうしても女性でなくてはならなかった。
でなければ、完全犯罪が成立してしまうからね。
よく出来てますよ、本当にこのトリックは。拍手。
トリックは文句なしとしても、よくわからなかったのが、探偵役の稲口のへたれっぷり。
へたれというよりは、ダメ男? もうマダオでいいよって。。。'`,、('∀`) '`,、
神合茜との勘違い恋愛ゴッコは、このミステリに必要だったんですかね?
確かに、茜はレッドヘリングとしての効果は絶大だったんですけどね。
どうしても、ストーカー要素たっぷりの女々しいキャラクターには好感が持てなかった。
さらに、真の探偵役の影石俊一に関しても、登場したてはブラック・ジョークが効いて面白い人物像ではあったんですが、猟奇殺人が連続して起きている異常事態にも関わらず、妙に軽快にジョークを飛ばし緊張感ゼロ。
稲口と会話をする度に、ジョークを通り越して厭味の連発には嫌気がさしてくる。
著者はそのブラック・ジョークのやりとりがクールだと思っているのかもしれないが、スパイスの効いたジョークは、ここぞっていう時に決めるからこそ効果があるんですよね。。。
他の登場人物にしても、勇気ある(笑)単独行動に始まり、誰一人として殺人鬼に恐怖することなく、いつも観ているテレビ番組を観ていたとか、呑気にシャワー浴びようと思ったとか、冷静に読書していたなど、異常事態中のサスペンス性など全くの皆無。(´ー`)┌
頚木島や、頚木館の描写力や人物造詣の深みの無さ。
会話のセンスや、ファミレスのコーラよりも薄い人物背景などなど、小説としての面白さは見受けられなかった。
( ゚_ゝ゚) { 『インプットするものがなければ、出てくるものも何もない。』 殺人が起きなければ、探偵も出てこれない。
テーマ : 読んだ本。 - ジャンル : 本・雑誌