::: サスペンス・ミステリ ::: ★★★☆☆
1988年の作品。
言うまでもなくアガサ・クリスティ原作 『そして誰もいなくなった』 のパスティーシュである。
著者の代表的な作品としては、エラリー・クイーンへのオマージュとして捧げた 『Wの悲劇』 も有名ですね。
わたくしは1988年当時、講談社より刊行された単行版で読んで、すごく面白かったという印象があり、忘れっぽいわたくしとしては珍しく、ずっと忘れずに記憶に残っていた作品。
今回、徳間書店から文庫版として新装刊されたので、なつかしく思い再読しました。
当時は、本家の 『そして誰もいなくなった』 は既に読了しており、本書においてはトリックを見破ってやろうという気持ちよりも、パロディ本として楽しんで読んでいたせいか、あまり内容に対してどうこうとダメ出し的な感想は抱いていなかった。
しかし、再読してみると少なからず物足りなさは感じましたね。
生真面目にパスティーシュしているという印象を受けました。
それは本家に対する誠実さを充分に感じるのですが、ミステリの面白さの1つでもある“遊び心”に若干欠ける。
“嵐の孤島” と化した海上のヨットで、1人また1人と殺人が行われていくのですが、その状況も機械的で単調。
致命的なのがサスペンス性が著しく欠ける点。
プロットにしても、 『そして誰もいなくなった』 と 『オリエント急行の殺人』 を足して割ったようなもので、ミステリの肝は全て、本家名作のいいとこ取りという感じが否めない。
せめて半分くらいはオリジナリティがないと、オチが簡単にわかってしまう。
ただ、ラストのどんでん返しに関しては、ヒロイン視点で読まされていた分、救いがあるが、いずれ告げられるであろうある “企み” の失敗という余韻を残したラストは非常に印象的である。
赤川次郎の作品なんかもそうですが、昔読んだ本を年齢を重ねてから改めて読むと、客観的に冷めた視点で読んでしまうせいか、かなり色褪せてみえてしまう。
若い時分に読んでいた本は、何の先入観も、抵抗感もなく素直に読んでいたんだなぁと改めて思いました。
やはり、ミステリでも純文学でも、名作は感受性のするどい若い時期に読んでおくべきと思いました。
※ これ以降ネタバレしてます。アガサ・クリスティの 『そして誰もいなくなった』 の小説を真似て殺人を重ねる真犯人は誰なのか?
パスティーシュ作品なだけに、ラストの数十ページを読むだけで真相が明らかになるのだが、わかっていながらジリジリとした気持ちで、最初から丹念に読むというのは、かなりストレスありますね。(笑)
これが赤川次郎のように、映画的(視覚的)な手法を用いたストーリーテラーな作家だと、サスペンス性も高く、ページを捲るのも楽しみというもの。
しかし、真面目な著者の小説は、とにかく読む時間の流れが遅く感じる。
読みづらい文章や表現でもないのだが、やはり、エンターテインメント性が低いのでしょうか。
主人公が1人生き残るまでが単調でいまひとつ。
本家を読んでいるだけに、とりあえず、みんな死なないと話が進まない(笑)であろうことは明白なので、ストレス溜まりましたね。(笑)
本書は、 『そして誰もいなくなった』 をベースにした、 『オリエント急行の殺人』 な結末といったところ。
大型ヨットで沖縄へ向う旅(クルージング)に集められた7人。
このクルージングの目的は、物語の語り役として登場するヒロイン・桶谷遥を自殺に追い込むことにあった。
つまり、遥を除く全員が主犯であり共犯者だったという設定。
動機は、遥の父親が経営するホテルでの火災事故にあった。
杜撰な経営方針、違法建築による人災で30人もの人間が死亡した。
6人はこの事故の被災者の遺族や関係者だった。
彼らはその恨みを晴らすべく、人芝居をうち、間接的な手段(自殺という形)で遥を殺害しようと企む。
何者かによって殺害されたかのようにみえた5人は、死んだふりをしていたというだけのこと。
海上で孤立するヨットで、生きる希望を失った遥は、海へと飛び込み自殺を試みる。。。
遥が自殺を遂げたことに祝杯をあげる6人だが、奇跡的に遥は救出されていたというどんでん返しが待っている。。。
遥1人が船上にとり残されてからが、本書の面白さが発揮される。
本家の名作である 『そして誰もいなくなった』 、 『オリエント急行の殺人』 を知らないという方にとっては、それまでの過程は充分に楽しめると思われるが、そうでない方には退屈かもしれませんね。
わたくしは本書の再読でもあるので、ストレスを感じるほど退屈でした。(笑)
しかし、今更ながらですが、タイトルのつけ方と、事件の顛末がピッタリとマッチしている点や、ラストのどんでん返しは非常に上手いなぁと思います。
“誰も” と “誰か” というちょっとした言葉の違いで、物語の結末までも変えてしまえる、言葉遊びともいえる発想は面白い。
また、ヒロインを語り手にすることで、読み手に感情移入させることに成功している上、本家にはないラストのどんでん返しが生きてくる。
自殺したと思われていた遥が奇跡的に生きていたことへの安堵感の反面、復讐を達成したと思っていた6人の、その後の暗い運命を想像させるだけの余韻を持たせている結末は秀逸。
物語の根底には、犯罪者に対する制裁というテーマがあり、人災によって奪われた命に対する犯罪者への制裁は、被害者関係者自らが裁判官となって断罪している。
しかも、大切な人を奪われる苦しみを、犯罪者にも身をもって味わせるというわかりやすい手段を用いている。
人の命を奪った者は、自らの命で償うのが当然であろうという、法という客観性を度外視した国民的な感情を強く感じます。
2009年から国民参加が義務化される裁判員制度を考慮した一冊ということでしょうか。
( ゚_ゝ゚) { 『信じられるのは死者だけ・・・』 そうとも限らない。(笑)